2017年02月19日

『羊と鋼の森』 宮下 奈都著 文藝春秋 15/09

羊と.jpg 最初の10ページで物語から目が離せなくなりました。なんと繊細な言葉を、なんと深みのある言葉を、なんと真摯な言葉を紡いで一つの物語を書きあげているのでしょう。何度か出てくる原民喜の言葉がそれを象徴しています。「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」……この言葉は、主人公の外村が目標としているピアノの調律の形なのですが、まさに著者の宮下さん自体がこのような文体を目指してこの物語を書き上げたような気がします。小川洋子さんの『猫を抱いて象と泳ぐ』(チェスの少年の話)の文体とよく似ている気がしました。
 タイトルの「羊」とはピアノの弦をたたくハンマーのこと。フェルト(羊毛)でできていて、羊は「美しい・良いもの」の象徴という語源があります。「鋼」はピアノの弦のこと。よい腕の調律師さんが調律したピアノは、まるで深い森を歩いているかのような音の景色を奏でます。どんな森を歩くのか、どのように歩くのか、誰に歩いてもらいたいのか、調律とはHz(ヘルツ)を正しく合わせるだけではなく、森や夜やさまざまな美しいものを、音楽を、それらの輝きを引き出すものでした。
 私のつたない文章では表現できずとても残念なのですが、この本の醍醐味は静謐で緻密で美しい文章にあります。「本当に上質の小説は、ブックトークなどできない。やはり本の魅力は、自分で読んでこそ味わえるものなのだ。」と強く感じさせられた本でした。早くも今年の読書bPになりそうです。
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2017年01月29日

『キリン』  山田 悠介著  角川文庫  13/16

kirinn.jpg これも中学生のビブリオバトルで紹介されていたので手にとりました。
優秀な子供がほしい女性のために、ジーニアスバンクという企業が優生学を利用して、条件のよい男性の精子をオークションで売りに出します。なんのとりえもなく軽い扱いを受けることが多い厚子は、これを利用してこれまで自分をバカにしてきた人たちを見返してやろうと、「クローバー113」を75万円で落札。それは"長身痩躯の美男子。超一流国公立大卒業。IQ180を超える天才数学者。運動神経も抜群。フィールズ賞を受賞。年収2000万円"と謳ったものだった。厚子は妊娠し出産。秀才と名付け、英才教育に力を入れる。その結果、自分に懐かず冷たい性格ではあるものの、小学3年生で大学生の数学が解ける天才児になる。しかし、顔は自分に似たのか不細工だった。そこで、もう一度オークションに参加し、今度は「ハート333」を200万円で落札。こちらは"抜群の顔立ち。人格者。ノーベル化学賞受賞者"と謳っていた。厚子は再び出産し、麒麟児にあやかろうと「きりん」と名付ける。この子も賢く順調に成績を伸ばしていたのだが、ある日成長が止まる。小6までの問題は完璧に解けるのに、中学生の問題は全くお手上げなのだ。おまけに背中にきりんのように縞模様のあざがたくさん浮き上がってきた。
 厚子は価値がなくなったきりんを邪険に扱い、秀才だけをかわいがる。さらにジーニアスバンクが失敗作を引き受けて教育する全寮制の学校にきりんを預け、ほったらかす。きりんはどんな扱いをうけても厚子と秀才を慕い、学校で黙々と絵を描き続ける。やがて、秀才にも異変が起き、ジーニアスバンクの恐ろしい陰謀がわかり……という内容です。
 山田さんは相変わらず状況設定がうまく、つかみが抜群です。でもわざとかもしれませんが、厚子も秀才もきりんも性格が単純すぎて人間味が感じられません。天使のような子の中にも不安やどす黒い感情が渦巻くことがあるでしょうし、冷たい人間にもやさしい一面や同情すべき点がある。「楽しい」「悲しい」と書かずにその感情を表現するのが小説の奥深さだと思っている昔人間には、ちょっと残念な気がします。かといって自分が書けるわけではないんですけどね。あ、それと表紙のお兄ちゃんはもっと不細工に書かなくっちゃ!
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『?(疑問符)が!(感嘆符)に変わるとき  新聞記者、ワクワクする』 小国 綾子著 汐文社 14/10

gimonn.jpg 大阪府の中学生のビブリオバトル≪本選≫で紹介された本です。「作者である小国さんは、新聞記者の仕事が大好きでたまりません。しかし息子さんが小3になった時に、ご主人のアメリカ転勤が決まります。みなさんは小国さんの立場だったらどうしますか、仕事を辞めてついていきますか、それとも日本に残りますか?……(手をあげさせる)はい、ありがとうございました。小国さんが出した答えは、仕事をやめてついていく、でした。それは〈迷った時にはやったことのない方を選ぶ〉ということを信念としていたからです。」そんな形で聴衆を巻き込んで始まったビブリオバトル、これは読んでみるしかないでしょう(笑)。

 しかし読んでみて、お〜いっと突っ込みたくなりました。なぜなら小国さんの会社は、子育てを理由に退職した社員は、正社員として再雇用の道を開くという制度がある会社ではありませんか。しかも旦那さんのお仕事も新聞記者。それじゃ、数年で日本に戻れるに決まってるじゃん!というわけで、「すごい勇気ある決断!」と思った選択肢が、バトラーの説明不足という”ケチ”がつきましたが、そんなことでこの本の面白さは損なわれません。いいところは、小国さんがとても前向きな性格であること。どんな時にも、行動する、とことん突き詰める、面白がるという3拍子で、学生時代にも一年間バックパッカーとして旅行しています。そして新聞記者になってからも警視庁担当記者の朝駆け宵討ちの辛い経験で相手の言葉の真意をつかむ極意を知り、産後うつになりそうなときは育休を利用して生後6か月の赤ん坊と3か月間スペイン旅行をし、その経験で本を出版しました。この転んでもただでは起きない性格は、どの業界にいっても通用しそうです(笑)。「赤ちゃんがいるからできないことではなく、赤ちゃんがいるからこそできることを探そう。」「会社は辞めるけど仕事はやめない」
「ヒラリー陣営のボランティアもオバマ陣営のボランティアも両方やってみる(前の大統領選挙時)」という姿勢もとても素敵です。また、新聞記者さんが自分の書く記事で扱う「言葉」と「表現」に細心の注意を払っていることも伝わってきて、彼女の他の本も読んでみたくなりました。これから、将来の進路を考えていく中高生にとくにお薦めします!
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『天下人の茶』  伊東 潤著 文藝春秋 15/12

tennka.jpg茶の湯文化を創出した「千利休」と、その弟子たちの生き様を描いた短編小説です。
もちろん小説ですので憶測でしかありませんが、「天下人=秀吉」と利休との関係は、こういうものだったのかも知れないと納得させられる内容でした。秀吉にとりたてられ、天下一の茶人となった利休は独自の審美眼により秀吉やその他の多くの武将たちをとりこにします。しかし、それは図らずしも信長が始めた「お茶湯御政道」を後押しする形になりました。この本に出てくる武将たちと利休はそれぞれ、秀吉が繰り返す朝鮮出兵により国内が疲弊していく様子を歯ぎしりする思いで見ています。利休は決して茶の湯のみに生きた男ではありませんでした。また茶人武将の牧村兵部・瀬田掃部・古田織部・細川忠興、そして山上宗二の利休に対する敬愛と複雑な胸中が描かれていて、とくに「瀬田掃部(かもん)」の編は、菊池寛の「形」を読んだようなラストで余韻が残りました。マンガ「へうげもの」を読んでいたおかげで、人物と場面が容易に想像できて2倍も3倍も楽しめた気がします^^
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2016年12月29日

『あきない世傅金と銀』 田郁著 16/02

あきない.jpg 大阪の天満を舞台にしているので、出てくる地名も楽しみです。大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出されることになった幸は、学者である父の知もありメキメキと才を発揮して番頭とお家さんの富久に見込まれる。2巻では、お店再建の立役者として、色狂いの阿呆ぼんの後添えに選ばれた幸が商に目覚めていく様子が描かれている。次々と襲いかかる試練を幸がどう乗り越えていくのか、ほのかに幸に想いを寄せる次男の存在もあり、3巻以降も楽しみです。
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『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』 清水 潔著 新潮社 13/12

殺人犯.jpg うわさの「文庫X」の中身がこの本ということを知り、読みました。群馬と栃木の県境で起こった、少女5人の連続殺人事件。犯人がすでに捕まっているものもあれば、未解決のものもあり、それまで別々の事件として処理されていたものを、ジャーナリストの清水氏さんは同一犯の犯行という考えに基づき、丹念な取材によって証拠を突き止めていく。犯人として挙げられていた菅家さんを冤罪から救い出す過程、そして真犯人に近づいていくにつれて警察や検察の密室での取り調べ、自白の強要、杜撰なDNA鑑定が明らかになっていく。非常に読みやすい文体なので一気に読めます。
 一介のジャーナリストが、自分の伝手を駆使して、テレビを動かし、国会議員を動かし、冤罪で死刑囚だった管家さんを救い出す場面は圧巻ですが、犯人を特定しつつも警察に握りつぶされるラストからは無念さが伝わってきます。自分では絶対に手にとらないと思われる本なので、読む機会ができてよかったです。
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2016年08月23日

☆2016夏休みの読書☆


 おかげさまで夏休みでリフレッシュし、「本を読みたい」という気力が
戻ってきました。夏休みで読んだ本・買った本をリストアップしました。
2学期の目標は”授業内でのブックトーク”。そのため、これからはYA本
の読み返しが続きます。本が書架からあふれだし、どうしようかと思案中です。

【教材・ブックトーク用】
・満点ゲットシリーズ ちびまる子ちゃんの四字熟語かるた
・中学入試でる順過去問ことわざ・語句・文法合格への1190問 3訂版
・「文豪」がよくわかる本  福田和也:編
・強く、潔く。 夢を実現するために私が続けていること  吉田沙保里:著
・世界でいちばん貧しい大統領からきみへ  くさばよしみ:編
・鋼のメンタル      百田尚樹:著
・読めば読むほど面白い「古事記」
・図解!地図とあらすじでわかる古事記・日本書紀  鈴木靖民:著
・蝶々はなぜ菜の葉に止まるのか 稲垣栄洋:著
・月光の夏       毛利恒之:著
・自然をつかむ7話   木村龍治:著
・幸せはあなたの心が決める   渡辺和子:著
・学校がアホらしいキミへ   日垣隆:著


【自分の楽しみ用】
・無常という力〜「方丈記」に学ぶ心の在り方  玄侑 宗久:著
・最高齢プロフェッショナルの教え  徳間書店編集部
・四月天才       小泉 吉宏
・月読ー自選傑作集   山岸 涼子
・新しい道徳      北野 武
・竜と流木       篠田 節子
・初恋料理教室     藤野 恵美
・総選挙ホテル     桂 望実
・帝国の女       宮木 あや子
・どんぐりのリボン   田辺 聖子
・冷たい方程式     トム・ゴドウィン



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2016年08月15日

『あなたを変える枕草子』 清川 妙著 小学館 13/03

 あなたを.jpg母から薦められて読みました。
清少納言の繊細な感性、細かな気づきを一つ一つ丁寧にとりあげて紹介しています。清少納言が好きな人は、作品はもちろんのこと、清少納言の性格そのものを愛しているように感じます。新しい発見をしたときの喜び、気の利いたやりとりができたときのうれしさ、そして定子に対するそこはかとない敬慕の念と、辛いことは書かないという徹底した潔さ。それらが、清川さんの説明から感じ取ることができます。「あなたを変える」かどうかはわかりませんが、『枕草子』と清少納言がますます好きになりました。
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2016年06月20日

『老後の資金がありません』  垣谷 美雨著  中央公論新社 15/09

 老後.jpg垣谷さんは、ぎょっとするようなタイトルの本が多く、それだけで手にとってしまいます。『70歳死亡法案、可決』『結婚相手は抽選で』そして『老後の資金がありません』ときたら、興味がそそられるではありませんか。
 主人公は50代のパート主婦の篤子さんです。子育てが終わり夫の定年まで残りわずか。貯金1200万で老後の暮らしもなんとかなるかと思っていたのに、娘の結婚で相手サイドの見栄につきあわされて500万の出費。それに続く舅の葬儀で400万の出費。みるみる貯金が目減りした中での自分と夫の突然のリストラ。真っ先に節約すべきは姑の介護施設費用の負担額の月9万円だと篤子さんの鼻息は荒くなります。姑はまだまだ元気でそんな高級施設にいる必要はない。家庭の事情も話して、当面はショートステイやデイサービスで乗り切ってもらえるよう義理妹にも頼んで……と思っていたのに、この妹が曲者で首を縦に振らない。おまけに夫も自分の家のことなのにすべてに及び腰でまったく頼りにならない。追いつめられた篤子さんはどうこのピンチを切り抜けるか!……というストーリーです。
 内容はタイトル負けしているのですが、葬儀で言いくるめられて思わぬ出費のあたりは現実味があって、参考になりました。意外にも姑さんとうまくやっているあたりはホッとしましたね。今のところ、垣谷さんの作品は『あなたの人生、片付けます』が一番好きです。
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『あまからカルテット』  柚木 麻子著 文藝春秋 11/10

 あまから.jpg「一度会った、あの人が忘れられない。」「私の料理はヒトマネなの?」「彼とこのまま結婚していいの?」アラサーになった中学時代からの仲良し4人組が、それぞれの悩みやトラブルを共有しつつ、友情パワーで乗り越えていくほのぼのストーリーです。一話ごとに料理が鍵となっています。ちなみに一話目は、ある「いなり寿司」をにぎった「彼」を探すという設定。会話・味付け・サイズから4人が口コミ、あるいは推理、仕事の情報網を使ってピンポイントで彼を突き止めます。このいなり寿司がインパクトがあるのでしょうね、文庫本の表紙は「いなり寿司」の写真になっていました。気楽にさくさく読めます。
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2016年06月05日

『鯨分限』  伊東 潤著 光文社 15/09

 クジラ.jpg『巨鯨の海』に続き、紀州・太地を舞台とした鯨捕りのお話です。今回は長編で、幕末から明治にかけて衰退していく最後の捕鯨集団を率いた棟梁・太地覚吾が主人公です。ちなみに「分限」とは富豪のこと。親から頑強な身体と知恵と精神力を受け継いだ覚吾は、捕鯨に精を出すが沖合に現れる鯨の姿は最盛期の半分以下に激減。このままではいけないと北海道の漁場に視察に出かけ、アイヌと段取りもとりつけるが、おりしも安政南海地震による津波により、村は大きな被害を受ける。巨額の借金を背負いながら被災した人、稼ぎ手を失った家族の保障にと駆け回る覚吾たち。そんな中、巨大な「大背美」鯨が現れ、村の財政を危惧した沖旦那の辰太夫は無理して大物捕りに船出して、船団一式を遭難させてしまう。そんなこととは知らない沖合衆は、多くの死者・遭難者をだした「大背美流れ」の件を、棟梁である覚吾の判断ミスとして非難するが、覚吾は一切を自分の胸にしまい矢面に立ちつづける。黒船による捕鯨で鯨が激減する中、古式捕鯨では太刀打ちできないと覚吾は太地、そして北海道での新しい捕鯨を実現しようと奔走するが、長州征伐隊に組み入れられるなど幕末の激動の時代に翻弄され、財政上の頼みの綱である新宮藩・そして小野組(巨大財閥井筒屋)の解体により失脚を余儀なくされる。
 これでもかという逆境の中、諦めずに最前の策を練り続けた覚吾ですが、ついに村を追われることになります。別地でわずかながらも財を築いた覚吾は、最後に村に自費で灯台を建てます。海と、そして鯨とともに生きた男の一代記で、大背美流れの事件の経過が時系列とは別に断片的に組み込まれているので、なんとか無事であってほしい、生きて戻ってほしいとハラハラしながら読了しました。
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2016年05月29日

『ナイルパーチの女子会』 柚木 麻子著 文藝春秋 15/03

ナイルパーチ.png タイトルのナイルパーチとは、スズキ目アカメ科の淡水魚の名前だそうです。淡白な味で知られる食用魚だけれど、一つの生態系を壊してしまうほどの凶暴性も持つ要注意外来生物だそう。この小説の中では、キャリアウーマン・志村栄利子と専業主婦人気ブロガー・丸尾翔子の二人をナイルパーチに見立てている。かたや、完璧主義。かたや、怠けた性格。それなりに社会に溶け込んでいるものの、同性の友達ができない性格であることに強烈なコンプレックスを持つ志村栄利子は、人気ブロガーの翔子に近づき彼女と親友になることで価値のある人間になろうとするが、常識の域を超えた接近ぶりは翔子を怯えさせてしまう。
 どう猛に網をはぐらせ、戦略を練り、突き進むことでしか生きられない栄利子と、栄利子に狙われたせいで自らの過去と向き合い、自分もナイルパーチであることに気づいてしまう翔子の心理的葛藤がたくさん書きつらねられています。
 「親友」・「女友達」にこだわる彼女たちの心理は痛々しくて途中からついていけなくなりましたが、財産・社会的地位・恵まれた家庭を手にしたものは、自分に足りないものを執拗に探し出し、それに執着することで生きる意味を見出そうとするのかも知れません。彼女たちが日々のささやかな幸せに気づき、それを「幸せ」と認識できることを願ってやみません
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2016年05月22日

『黒南風の海 加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』 伊東 潤著 PHP研究所 11/07

黒南風.jpg加藤清正の功績が知りたくて、手に取りました。
2011年の本屋さんが薦める時代小説 1位の作品だったそうですね。この本の主人公は加藤清正個人ではなく「文禄・慶長の役」の全体像を描いていますが、最終的には加藤清正軍の沙也可こと佐屋嘉兵衛と朝鮮軍の会計官、良甫鑑こと金宦(きんかん)の二人に集約されていきます。運命に翻弄されながらも自分が正しいと思う道を貫いた二人の生き方に注目です。加藤清正は豪快で無益な殺戮はしない人物として描かれていますが、一方の小西行長は非常に悪者として描かれていました。あまり知らない小西さんの実像……真相はどうなのでしょうね。
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2016年05月05日

『七十歳死亡法案、可決』 垣谷 美爾著 幻冬舎  12/01

 70歳.jpg【2020年、高齢者が国民の3割を超え、社会保障費は過去最高を更新。破綻寸前の日本政府は「七十歳死亡法」を強行採決する。2年後に施行を控え、宝田東洋子(55)は「やっと自由になれる」と喜びを感じながらも、自らの人生の残り時間に焦燥感を隠せずにいた。我侭放題の義母(84)の介護に追われた15年間、懸命に家族に尽くしてきた。なのに妻任せの能天気な夫(58)、働かない引きこもりの息子(29)、実家に寄りつかない娘(30)とみな勝手ばかり。「家族なんてろくなもんじゃない」、東洋子の心に黒いさざ波が立ち始めて…。すぐそこに迫る現実を生々しく描く。】
 との紹介文に惹かれて手に取りました。タイトルが刺激的で、また今の財政難・借款を一気に解決する最良の方法として描かれる「七十歳死亡法案」とそれをめぐる論客たちの論争やそれぞれの思惑がとてもリアルで引き込まれます。また、この法案によって家族の均衡が崩れ、口に出さずにずっと耐えてきた母・東洋子が家出するという強硬作戦に出て、家族が変容せざるを得なくなるところが痛快でした。実際にはこんなうまくはいかないでしょうが、国レベルでも、家庭レベルでもこういう大ナタを振るう改革がたまには必要なのかもと思いつつ読了しました。
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2016年05月01日

『巨鯨の海』  伊東 潤著 光文社文庫 05/09

巨鯨.jpg 山田風太郎賞や本屋大賞、吉川英治文学新人賞、中川義秀文学賞、「この時代小説がすごい!」など、様々な賞を獲得している著者と知り、読むことにしました。
 江戸時代から明治にかけての紀伊半島の漁村・太地(たいじ)での鯨漁に関する6話収録の短編小説です。紹介文に「一大クロニクル!」とあり、クロニクルって何!?と気になり検索してみると、「年代記」という意味なのですね。確かに、全盛期のにぎわいを懐古しながら斜陽に傾き、終焉を迎える捕鯨村の様子を各短編で伝え、ラストは明治初期に棟梁の太地覚吾が破産して古式捕鯨が絶えるところで終わっています。(太地覚吾の一代記は、『鯨分限』で書かれているようですので、次の楽しみができました♪)ちなみに太地は、修学旅行の下見で鯨博物館などを訪問させていただいた地であり、そこが舞台の小説ということで非常に興味がありました。
 毎回命の危険と隣り合わせで巨大な鯨と対峙する組織捕鯨には、厳しい掟があり、その掟を絶対視するがゆえに強い結束が生まれ、村が繁栄してきました。沖合を中心に筆頭刃刺、各勢子船の刃刺し、水主(かこ)を中心とする花形の沖合衆と、捕った鯨を解体・搾油し、捕船の建造や修理、道具の製造などを行う納屋衆たち。病人と赤ん坊以外は、鯨に関わるという村での悲喜こもごもが、鯨のダイナミックさと共に見事に描かれていて、この世界に没頭することができました。ちなみに4話めの「比丘尼殺し」のラストの一文(比丘尼や白女を殺す下手人が捕まったにも関わらず、新しい白女の遺体が見つかった)の解釈に悩みましたが、下手人を捕まえるために口問いとして潜入捜査をしていた晋吉が、ミイラ取りがミイラよろしく血を見ないではいられない体質になってしまい殺したと考えるに至りました。この解釈であっているのかしら??
 短編ですが、鯨と人間の真っ向勝負の戦いぶりや、恨み鯨となる母子鯨や親子鯨の愛情、太地に生まれても鯨鯨になじめない者の悲哀など、さまざまな人間模様が胸に迫ります。手ごたえのある作家さんを知ることができて、とてもうれしいです。これからこの作家さんの本を追いかけたいと思います!
posted by のん吉 at 12:54| Comment(0) |  ●何度も読み返したい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする